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【第3章】結論 現代美術の「教育ビジネス化」

3 結論 現代美術の「教育ビジネス化」

 前章で、現代美術と子どもたちを繋ぎ鑑賞教育を行うことが現代美術普及において必要であることが分かった。また、鑑賞教育の評価は、子どもたちの感性を対象とするのではなく、鑑賞を通じ得た着想を相手へ伝えるコミュニュケーション力等の評価を米仏が重視していることも分かった。
これらを踏まえ、本章では、現代美術を「教育ビジネス」として日本の学校でどのように展開していくべきかを述べたいと思う。

3-1 学校との連携

 鑑賞者教育を学校で実施する上で留意すべき点に、先に述べた通り移動の問題が挙げられる。教員へのアンケート調査結果から移動時の不安が最も多く挙げられていることから、鑑賞者教育は子どもたちを施設へ招くのではなく、美術教育専門者と作品が各学校へ出向くことが有効であり、持続可能なプランであると考えられる。
 では、本稿のテーマの1つ「現代美術作家の経済的自立」を成立させるためにはどのような実施内容が現実的なのだろうか。また、有償の鑑賞者教育を提供するにはどのような学校へどのような教育内容を実施すれば良いのだろうか。本章は日本の学校の現状を分析しながらこの問いに答えるものとする。

(1)教育費
 平成16年度に保護者が子どもの学校教育及び学外活動のために支出した経費を学校種別に見ると,最も高いのは私立中学校で127万円5千円、1ヶ月約10万6千円となっている 。
では、私立中学校で95万6千円、毎年教育費として保護者が支払っている学校教育費はどのような用途に充てられているのだろうか。公立との金額を比較ながら検証してみたい。

(項目/公立/私立、の順に表記)
年度の学習費の総額/47.2万円(3年間で約141万円)/126.9万円(3年間で約380万円)
学校教育費/13.3万円/95.4万円
授業料/―/41万円
修学旅行・遠足・見学費/2.5万円/6.5万円
学校納付金等/1.6万円/25万円
図書・学用品・実習材料等/2.5万円/3.9万円
教科外活動費/2.6万円/4.9万円
進学関係費/3.7万円/13.6万円
その他/0.4万円/0.7万円
学校給食費/3.7万円/13.6万円
学校外活動費/30.2万円/30.4万円
補助学習費/23.6万円/19.4万円
その他/6.6万円/11万円

上記の費用一覧から、授業料や進学関係費、図書・学用品・実習材料等の主要な教育には150万円(12.5万円/月)なのに対し、修学旅行・遠足・見学費、教科外活動費などの余剰教育へは11.4万円(9,500円/月)と、公立よりは2倍近い金額になっているものの非常に低い数値をみせている。
これらのことより、予算が潤沢にある私学での主要な教育活動と美術鑑賞をいかに繋げていくかが最も有効であると考えられる。
VTCの事例より、対話型鑑賞は子ども達の学力向上や進路選択へ好影響を与える可能性があることが分かっている。よって、美術鑑賞を「美術の時間」へ留めるのではなく、新学習指導要領 の「生きる力をはぐくむ」という理念を実践するための1プログラムとして、予算の多い「総合の時間」で行うことが、「現代美術作家の経済的自立」を踏まえた上で合理的であるといえる。

(2)立地
日本で最も私立学校が多いのは東京都である。

(学校種/東京都/全国/東京都学校数、の順に表記)
小学校/4.6%/1%/1,063校
中学校/26%/6.7%/2,869校
高等学校/56.8%/29.7%/3,077校

上記の一覧から、東京都における私立学校の占める割合が全国の2倍近い数値を出していることが分かる。また、平成11年度に制度化された中高一貫教育を行う学校数は増加し続けており、特に併設型の増加が大きくなっている。加えて東京都は芸術・美術大学が日本で最も多いことから、関東圏に滞在する現代美術作家を志す学生、あるいは現代美術作家もまた多いと推測できる。美術鑑賞プログラムの対象である、私立学校の大半が東京都に集中していることは、利便性をふまえた上でも非常に有効な状況であると言える。作品の鑑賞において実物を観る体験に勝るものは無く、作品は一般的に作家の周辺に保管されていると考えられるからだ。

(3)傾向
 では、最も予算の多いと考えられる「総合の時間」で私立学校はどのような授業を行っているのだろうか。ここでは、どの私立学校へ進学するかを決め実際に授業を受けるのは子どもたちであるが、その選択には保護者が強く影響していることを踏まえた上で、私立学校がどのような「総合の時間」と呼ばれる独自の教育プログラムを打ち出しているのかを考察したいと思う。
 近年、学習指導要領の改訂やPISAの調査結果、提唱された「OECD(経済協力開発機構)30カ国がスキルとして重視しているもの」など子どもたちに必要とされる能力や技能が変化を遂げている。それにより保護者は進学校だけでなく、n対n の授業や、3X型 の学習環境を積極的に構築している学校へも目が向くようになってきていると言われている。3X型の良質の学習環境も構築している進学校を保護者は選択したいと思っていることは自明だが、子どもの進路の選択肢が増えたことは近年の特徴の1つであると考えられる。
 子どもたちに求められる能力や技能、保護者のニーズの変化により、学校では「総合の時間」を用いて様々な取り組みを初めている。それは私立学校でも同様である。加えて、私立学校は授業料や受験料で収入を得る経営方式のため競合(他校)との差別化、独自の魅力的な教育プログラムを展開しなければならないという命題を持ち合わせている。
 鑑賞教育の観点から考えると、VTCプログラムや対話型鑑賞もまた、コミュニュケーション能力向上、思考力向上を図れることから3X型学習環境に当てはまるものであり、私立学校の教育現場が探求するn対n型授業の1つの様相を十分に成していると考えられる。
 では、私立学校では現在どのような理念の下に総合の時間を実施しているのだろうか。NTS教育研究所という、私学へ総合の時間に実施される教育プログラムを提供している民間団体がある。ここでは、NTS教育研究所という民間団体が私立学校、株式会社本田技研工業と共同で取り組んでいるHonda「発見・体験学習」と、CAL(Center for the Advanced Learning)を中心に私学独自の展開を見せる総合の時間がどのようなものかを考察したいと思う。
CAL とは、(1)対話をツールとして総合の時間の授業の追究をする(2)「暗黙知」(言葉や文章で表すことの難しい主観的な知識)を与える「チョーク・アンド•トーク」による授業から、「形式知」(言葉や文章で表現できる客観的な知識)を与える「グッドバイ・チョーク・アンド•トーク」への転換を図る、の2つを理念に掲げ授業のあり方について研究・実験を行っている私学教員の任意団体である。
ここで、CALが行った授業がどのようなものかその一部を見てみたいと思う。

(【タイトル】対象学年/内容、の順に表記)
【4枚の世界地図と6枚のフォトランゲージの読み解き】
中学生/各国の制作した自国を中心に置く地図の比較考察。5つの発展途上国の写真を元にディスカッション
【人間社会学「人はいかにして試練を乗り越えるのか】
/高校生/アラン・レネ「夜と霧」(仏映画)視聴後、フランクル「夜と霧」精読。オウム真理教関係の裁判傍聴、裁判官による説明。心臓手術見学。
【倫理試験】
高校生/人間の定義とその根拠についての論述。
【社会人力育成】
高校生/自己学習能力・コミュニケーション能力・プレゼンテーション能力の育成のためプロジェクト・ベース学習、自主学習を軸にテーマと目的を定め、その追究のプロセスを体験学習や問題解決学習によって構成。

上記の授業は一部の私立学校で行われた授業であり、東京都内の全ての私立学校がこのような傾向を持っているとは限らないが、現代の教育環境の変化へ柔軟に対応している私立学校の傾向は分かるのではないだろうか。
上記の教育プログラムの特徴に情報やコミュニュケーションを通じて自己の明確化、他者との関わり方の術を身につけるなどの実践的なものがあげられる。それらの評価は内容の質ではなく、どれだけ子どもたちが冷静に状況を分析し、自分の力で自己の考えを他者へ伝えられるよう努力できるかに重きがおかれていると言える。
次に、NTS教育研究所が実施しているHonda「発見・体験学習」 がどのようなものかを見てみたい。

1:体験 最先端の科学技術やその成果に触れる
2:学習チーム 相乗効果を生み出すダイナミズムを形成
3:グローバル・マルチタレント 外部講師の導入によるN対Nの学習
4:グローバル・ブレイン インターネットによるヒヤリング、リサーチ
5:ディスカッション 心と知のコミュニケーションの体験
6:相互編集 レポート、プレゼンテーションは相互編集の体験
7:プレゼンテーション HP、PPTなどで発信

 Honda「発見・体験学習」は5~10人程度の子どもたちによるチーム学習をベースにしている。各チームに1人コミュニュケーションサポーターとしてラーニングアドバイザーがつくが指導や示唆は基本的に行わず、チームの活動内容は全て生徒たちの自主性に委ねられている。子どもたちは技術と自然をテーマにした施設を見学しそこから得た着想をチームメンバーとディスカッションする。そして、最終的には学校から提示されたテーマへの返答をプレゼンテーションで発表するのだ。
このプログラムで重視されているのはコミュニュケーション、プレゼンテーション、リテラシー3つの能力向上であると考えられる。これは前述した私学における総合の時間の趣旨を展開し深化させたものであると言えるだろう。また、このHonda「発見・体験学習」の利用校の大半が私立学校であることより、私学が総合の時間に求めているニーズの立証になる、もしくは経営的な面で公立学校と比べ私立学校はこのような教育プログラムを受容することが可能な状況にあると考えられるのではないだろうか。

3-2 教育のための「現代美術」

 独自の教育プログラムを展開する私立学校で鑑賞者教育を実施するにはコミュニュケーション、プレゼンテーション、リテラシー3つの能力向上を達成する必要がある。これまで「美術の時間」の中で取り扱われていた鑑賞を、「総合の時間」に適した鑑賞へと企画しなおす必要があるのだ。では、それは一体どのような「鑑賞」が必要なのだろうか。先述した米仏の鑑賞者教育と私立学校独自の「総合の時間」をふまえながら、具体的な鑑賞者教育の実施内容を本章では考察したい。

(1)教育のための「現代美術」とは
 現代美術を鑑賞教育で用いる際にはコミュニュケーション、プレゼンテーション、リテラシー能力向上の達成を視野に入れる必要があることは先述した通りである。本稿における鑑賞者教育では、その3つのスキルが子どもたちへ求められる発端となった「OECD(経済協力開発機構)30カ国がスキルとして重視しているもの」 (以下OECDスキル)向上のために現代美術を用いる。つまりは、OECDスキル向上のためのツールとして現代美術を鑑賞教育で用いるのだ。

【OECDスキル】
リテラシー・スキル:情報にアクセスし、情報を処理すること、情報を結びつけたり、情報を評価したり、そして情報にもとづいて熟考するといった能力。
問題解決能力:パターンを認識して類似性を見いだし、発展させたり、問題を認識して、解決の戦略を展開したり、その戦略を評価するという能力。
対人関係能力:コミュニュケーションだけではなく、グループに参加する能力やグループで何らかの機能を果たす能力、そして一緒に作業する能力など、他人の役割も果たすための全ての能力、基本的には他人と一緒に暮らし、働く能力が含まれている。
個人内のスキル:学習戦略など生徒の学習への取り組み方。学習方法や、自己への配慮や関与の仕方。

(2)鑑賞教育概要
 ここでは、作品をプログラムでどのように使用するのかその具体案を述べたい。
作品はOECDスキルの中でもリテラシー・スキル、問題解決能力の育成を図るトリガークエスチョン の位置づけで使用する。また、全プログラムでは、子どもたちを少人数のグループに分け行う。これは対人関係能力の育成を図るためでもあり、対話型鑑賞をプログラムへ盛り込む上でも必要なことである。1つのテーマに基づき集められた4つの作品を対話型鑑賞した後、作品のテーマとは別の課題、もしくはトリガークエスチョンを提示しそれに対するチームごとの見解のプレゼンテーションを実施する。最終的な評価は、発表を通じ他者へより明快にチームの意見を伝えようとしていたか、加えて自己評価とプレゼンテーションを聴講した他の学生の評価を参考に行う。
次に、前述した小学生、中学生、高校生の鑑賞の傾向をもとに具体的なプログラム内容としてどのようなものが最適であるのかを述べたい。

●小学校1~4学生向けプログラム
小学校低学年の興味の対象は「主題」、「色彩」が占めており、対話型鑑賞を行う上では「物語性のある作品」を用いることが有効であると言われていることより、それらの要素を有している作品を選出するべきであると言える。作品の具体例を、本稿の定義する若手作家によるものではないが、いくつか挙げた上でどのようなプログラムが行えるか提示したい。

1:森村泰昌「ポートレイト(双子)」鑑賞後、マネ「オランピア」鑑賞、対話(リテラシー・スキル)
2:北島敬三「PORTRAITS」、横尾忠則「暗夜行路シリーズ」、対話型鑑賞(問題解決能力)
3:奈良美智「RUNNING NOSE BROTHERS」をチーム内での対話型鑑賞を通じ描かれている子どもたちの人物像、関係性を推察(対人関係能力)
4:プログラムで感じたこと、やってみたいこととその理由発表(個人内のスキル)

●小学校5・6学生向けプログラム
小学校高学年は小学校低学年で興味の大半を占めていた「主題」「色彩」が減少すると同時に「技術」「写実性」への関心が上昇し両者が同じ程度の数値を示す。よって、技術と写実性へより重点を置いた作品を取り入れることが有効であると言える。

1:松井冬子「世界中の子と友達になれる」松井えり菜「森の中から」森山大道「少年(2)・宮城県松島町」を元に、作品の中の人物の気持ち、おかれている状況、などを主軸にした対話型鑑賞(リテラシー・スキル)
2:青木敏郎「オーベルニュの教会」原雅幸「ナローカナルのボート乗り場」羽田裕「サン・ジョルジョ島」の3点を、絵画だと伝えずに対話型鑑賞(問題解決能力)
3:高谷史郎「明るい部屋」を鑑賞し、そこで起こっている物語をチーム内で1つかき出す(対人関係能力)
4:プログラムで楽しかったこと、やってみたいこととその理由発表(個人内のスキル)

●中学生向けプログラム
中学生の段階では作品の「技術」「写実性」に対する興味が上位、「色彩」「情趣」が中位となり、小学生でずっと最上位であった「主題」は最下位に落ち込んでしまう。「主題」に対する興味が下降線を描くのと対照的に「情趣反応」は上昇曲線を描く。
ここから、中学校では写実的な作品が鑑賞対象として適当であると言える。ただ、「情趣反応」が上昇曲線を描いていることから、中学生では単なる写実的作品だけではなく、情趣的要素のある作品も対象にした方がよいと考えられている。
また、CALの事例より中学生を対象にした、社会や世界へ視野を広げるようなプログラムが行われていることより、それらの作品を取り上げるべきであると言える。

1:内藤礼、草間弥生、川俣正のインスタレーション作品のアーカイブを元にチーム内での対話型鑑賞。作品テーマの考察及び誰にどこで見せるべきかを考える(リテラシー・スキル)
2:Chim↑pom「タイムボカン」視聴後テーマの考察、地雷問題を解決するためのプラン作成(リテラシー・スキル、問題解決能力)
3:1、2で出たアイディアをプレゼンテーションするための準備(対人関係能力)
4:プレゼンテーション、及び他のグループのプレゼンテーションを聴講した後、1、2で取り上げた作品の解説文を1人1人の生徒が書く。最終的には制と1人1人が自分だけの1冊の本に仕上げる(個人内のスキル)

●高校生向けプログラム
高校生の鑑賞における興味の対象は、中学生から上昇を始める「情趣反応」に対する興味が、さらに上昇して「技術」「写実性」と拮抗するような状態になっていると考えられている。よって高校生へ鑑賞してもらう作品へは写実的要素と内面的表現要素をあわせもつものを使うことが有効であり、また、CALの事例より、高校生になると小中学生と比べ集中力・思考力が上昇するため社会問題を取り扱っている作品、またはアートプロジェクトを取り上げる意義があると思われる。
1:森達也「A」を視聴し、チーム内での対話を通じ感想をまとめる(リテラシー・スキル)
2:寿クリエイティブアクション、BEPPU PROJEKT、学校の周辺で行われているアートプロジェクト、へ出品された来場者参加型の作品完成プロセスのプレゼンテーション(リテラシー・スキル、問題解決能力)
3:チームごとに関心のある社会問題を挙げ、それを解決するためのプランを作成する。社会問題を取り上げた作品群のリストを作成しておく(リテラシー・スキル、問題解決能力、対人関係能力)
4:各チームによるプランのプレゼンテーションを聴講した後、各メンバーが考えたプランを文章で批評する(個人内のスキル)

上記のプログラムはあくまで一例に過ぎず、実施時間の制約を念頭において企画されてはいない。私立学校の特色や生徒の状況を鑑みた上で改めて作り直す必要がある。また、若手現代美術作家が現在どのような作品を制作しているのか、その徹底的なリサーチもまた重要であると言えるだろう。加えて作品鑑賞とOECDスキル向上をいかに関連づけCALやNTS教育研究所などの民間団体が実施している教育プログラムと差別化を図るかも必要となってくる。アメリア・アレナスの対話型鑑賞では絵画作品を中心に取り扱っているため映像やパフォーマンス、作家によるプレゼンテーションが子どもたちへどのような影響、効果を及ぼすのかの検証も慎重に行わなければならないと言えるだろう。

(3)現代美術作家の経済的自立
 次に、美術鑑賞プログラムでどのように作家へ支援するのかを述べたい。
 先述した通り若手現代美術作家を単身世帯のフリーターと仮定した場合、その平均月収である16万円と、単身者の平均収入の20万3千円の差を埋める、4万3千円分の経済的支援を行うこともプログラムを検討する上で重要である。
加えて、私立学校における主要な教育費の平均費用は1月12.5万円となっているため、月12万5千円以内で4万3千円を作家へ支払えるような見積もりを出さなければならない。月の主要教育費が12.5万円の学校へ販売するプログラムが4万3千円以上の価格であるのは一般的な感覚から言っても非現実的なため、複数の学校を対象に同じプログラムを繰り返し行うことで利益を算出することが妥当であると言える。
 鑑賞教育では、1つのプログラムにつき作品を3~4点使用する。 また作品は、「若手現代美術作家の経済的自立」のテーマを踏まえ関東圏で活動する若手現代美術作家のもののみを使用する。作品は全てレンタル扱いとし、プログラムの価格に盛り込む。レンタル料は全て作家に支払われる。1つの作品のレンタル料は5000~1万円とする。最大4名の作家の作品を用いるプログラムを最低月5回行うことで、平均収入の差額である4万円を埋めることが出来る。
 このプランだと、絵画作品や彫刻作品と比べ未だ強力なマーケットが確立されていない映像作品やメディアアート、パフォーマンスアート、インスタレーションやプロジェクト型のアート作品を制作する作家へもアーカイブ等のレンタルをすることで経済的支援が行える。
次に、どの程度の価格と頻度で美術鑑賞プログラムを実施すれば「若手現代美術作家の経済的自立」が実現できるのかを提案したい。
小学校低中学年、小学校高学年、中学校、高等学校へ提供する作品が異なることから、まずは計16名の作家支援を目的とする。よって目標とする支援額の合計は1カ月68万8千円となる。1プログラムを実施する上で、各学級の人数が30人と仮定すると、司会進行役に1人、子どもたちのコミュニュケーションサポートスタッフに2人が最低限必要なスタッフであると言える。 1プログラムの時間を3時間と想定した場合、支払うべき最低賃金は計7,389円となり 、最低限この額を毎回のプログラムで回収しなければならないと言える。また先述した通り1プログラムの価格が4万3千円を越えることは避けなければならない。
これらの状況を踏まえると、月24回、1回3万6千円の美術鑑賞プログラムを行えば16名の作家へ月4万3千円分の経済的支援が行えると同時にスタッフへも最低限ではあるが労働に対する対価を支払うことが出来る。だが、このような美術鑑賞プログラムをどの団体も行っていない現状を考えるとこの段階へ到達するためには一定の時間と労力を要することは必須でありそれらを意識した上で計画を実行に移していかなければならない。
 では、各月得られるであろう68.8万円の利益を用いてどのような経済的支援を現代美術作家へ行うことが有益なのだろうかを考察したい。本稿では現代美術作家がその活動を行う上での経済的負担を軽減することが目的である。先述した通りそのための支援として下記の6点が挙げられる。

1:制作環境
2:制作で使用する機材、材料
3:作品発表場所
4:作品保管場所
5:活動をする際のサポーター(アートマネージャー・ボランティア)
6:作品共有・鑑賞機会(美術家向けライブラリー)

これらの支援は鑑賞教育へ作品レンタルという形で関わる現代美術作家へ実施するものである。支援の実現のためにはスタジオ、ギャラリー、ライブラリーの3つの施設運営が必要となる。また、機材購入及びそのレンタル活動を行うと同時に現代美術作家のサポーターとなるアートマネージャーの育成活動も視野に入れる必要がある。加えて、鑑賞教育の更なる充実を図るため上記の支援活動も学校、子どもたちとの連携を取りながら実施する必要があると言えるだろう。
ここで、「現代美術鑑賞者の自立的鑑賞」「現代美術作家の経済的自立」を念頭においた「鑑賞教育」と「支援活動」2つの事業の成長段階をラリー・E・グレイナーが提唱する企業成長モデルを参考に提唱したい。

(【企業成長モデル】鑑賞教育/支援活動、の順に表記)
【事業開始期1~5年】個人塾や私学での短期鑑賞教育、企画展や関連イベントを開催/アートマネージャーのインターン・ボランティア起用、マネージメント実践開始
【急成長期6~10年】私学での鑑賞教育開始/現代美術作家の私学での滞在制作及び個展開催 スタジオ、ギャラリー、ライブラリー運営開始に伴う専門スタッフ、アートマネージャー雇用、現代美術作品レンタル開始
【経営基盤確立期11~20年】私学巡回展開催、子どもたちのスタッフ参加/機材、材料提供開始、各アートマネージャーによる作家支援活動開始
【新成長期21~30年】学校との連携の下学校を会場に企画展、アートプロジェクト実施/各スタッフのノウハウを元に学校の企画展、アートプロジェクトに参加
【経営革新期】学校との連携の下学外での企画展、アートプロジェクト実施

上記の30年計画は非常に楽観的なものであり、希望的観測の強いものである。今後このプランを元に個人学習塾での実験、分析を通じより現実的なプランを練っていくべきであると言えるだろう。

(4)現代美術への影響
 前項で提示した鑑賞者教育によって現代美術へどのような影響が考えられるだろうか。鑑賞教育の観点から述べると、これが学校に定着すれば米仏の鑑賞教育の事例を鑑みても日本の現代美術鑑賞者数が増えることは想像に難くない。また、学校を舞台に現代美術が展開されていくことで、アメリカの大恐慌時代に実施された芸術家支援計画「フェラデル・ワン」がパブリックアートの隆盛の一端を成したように、日本独自の現代美術の展開も期待できるのではないだろうか。
 だが、現代美術の独自の展開以前に学校へ現代美術を持ち込み鑑賞者教育を行うことはパブリックアート同様表現への規制が発生することも自明である。また対話型鑑賞の先駆者であるアメリア・アレナスはプログラムで使用する作品はなるべく「物語性のある作品」「多様性のある作品」「親しみやすい作品」にすること、特にアートリテラシーレベルが第1段階であると考えられている小中学生へはそれらの作品群を用いることで効果が期待できると述べている。実際何が効果を発するのかは現在の日本の子どもたちへ実験してみなければ何とも言えない所ではあるが、現代美術を「教育ビジネス化」する上で全ての現代美術作品を利用出来るとは考え難い。作品の内包するテーマ以前に性的、暴力的、差別的なイメージを持っている現代美術作品を子供たちへ鑑賞させることを躊躇う教育現場職員が多いと考えられる。これらのことより、現代美術作品全てを教育ビジネスに転用することは難しく、恣意的に選ばれた現代美術作家のみの経済支援しか行えないと考えられる。

3-4 本研究の意義と限界

本研究では、現代美術を取り巻く日本の状況をアートマネージメントの観点から分析した。また、それを通じ「現代美術鑑賞者の自立的鑑賞」「現代美術作家の経済的自立」を前提に現代美術普及のために必要な要素を考察し、東京でのアートビジネスの可能性を探った。
だが、現代美術の教育ビジネス化に対する現代美術作家の意向や、作家選別が恣意的になる点、加えて子どもたちの実質的な現代美術に対する意識や欲求を十分に検討し得なかった点において鑑賞者教育においての「現代美術作家の経済的自立」「現代美術鑑賞者の自立的鑑賞」達成へは疑問が残り、改善の余地があると考えられる。
また、自身が行ったこれら考察には未だ足らない所があり、引き続き調査・研究を行う必要がある。これらの状況を踏まえて、今後の課題としたい。

卒業論文「東京型アートビジネス-ツールとしての現代美術-」は以上になります。ご高覧いただき誠にありがとうございました。

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松岡詩美

Author:松岡詩美
卒業論文『東京型アートビジネス-ツールとしての現代美術-』

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