FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【第1章】日本の現代美術

1 日本の現代美術

本研究は、現代美術と呼ばれる美術ジャンルを取り巻く日本の状況をアートマネージメントの観点から分析するとことを目指すものである。正確には現代美術という美術ジャンルは存在しない。本稿における現代美術の詳しい定義は後述する。
 現代の日本において、現代美術は広く受容されている美術ジャンルであるとは言えないだろう。日常的な感覚から言っても、古典美術と比べると現代美術を日常的に親しむ人がそう多くいるとは言えない。イギリスのロイター通信によると2009年に世界各地の美術館で開かれた特別展の1日当たりの来場者数調査で、日本の展示会が1日当たりの来場者数で1位から4位を独占したことが分かっている。

(順位/展覧会名/総来場者/1日の来場者数平均/会場/都市、の順に表記)
1/国宝 阿修羅展/946,172/15,960/東京国立博物館/東京
2/正倉院展/229,294/14,965/奈良国立博物館/奈良
3/皇室の名宝―日本美の華/447,944/9,473/東京国立博物館/東京
4/ルーヴル美術館展/17世紀ヨーロッパ絵画/851,256/9,267/国立西洋美術館/東京
5/第2回写真ビエンナーレ/419,256/7,868 /ケ・ブランリ美術館/パリ
6/ピカソと巨匠/783,352/7,270/Grand Palais/パリ
7/カンディンスキー/703,000/6,553/ポンピドゥーセンター/パリ
8/ジョアン・ミロ:ペィンティングとアンチペィンティング/377,068/6,186/MoMA/NY
9/ピピロッティリスト:あなたの体を外へそそぐ/391,476/6,186/MoMA/NY
10/THE ハプスブルク/390,219/5,609/国立新美術館/東京

これはイギリスのアート情報誌「The Art Newspapaer」による発表である。世界各地の美術館で開かれた特別展の来場者数上位10位の半分を日本が占めているにも関わらず、その中に現代美術展が1つも入っていないことから現在の日本において現代美術が古典美術と比べ広く受容されていないことが分かる。
日本以外では、ケ・ブランリ美術館で行われた「第2回写真ビエンナーレ」が5位に入っている。これは現代写真作家の作品展示をしたもので、総来場者数は23,000人程劣るものの3位の「皇室の名宝―日本美の華」に近い数値を出している。また、9位の「ピピロッティ・リスト:あなたの体を外へそそぐ」は、タイトルから分かるように現代美術作家のピピロッティ・リストによるものである。日本で上位10位に入った展覧会が全て古典美術なのに対し、海外では現代美術を取り扱う展示も入っていることを鑑みると、日本の現代美術鑑賞者数は海外と比較しても少ないことが伺える。ここで日本国内の現代美術展と先に述べた展示会の来場者数を比較してみたい。
(展覧会名/総来場者/1日の来場者数平均/会場/都市、の順に表記)
国宝 阿修羅展(2009)/946,172/15,960/東京国立博物館/東京
ピピロッティリスト:あなたの体を外へそそぐ(2009)/391,476/6,186/MoMA/NY
2008年度企画展平均(8展)/42,975/1,548/東京都現代美術館/東京
VOCA展2009/13,000/867/上野の森美術館/東京
東京都現代美術館で開催された8つの展示、若手現代美術作家の登竜門の1つの「VOCA展2009」の展示来場者数と古典美術の展示「国宝 阿修羅展」、アメリカ現代美術の展示「ピピロッティリスト:あなたの体を外へそそぐ」の差は歴然である。これらのことから分かるように、現代の日本において現代美術というジャンルはそれ以外の美術ジャンルと比べ集客力が弱く、海外と比較しても広く受容されている美術ジャンルではないと言えるだろう。
ただし、これらの特別展には全て、主催もしくは特別協力にテレビ局、新聞社が入っており、一般的な現代美術展と異なり上記の特別展はそれら大企業の有する豊富なネットワークと潤沢な広告費を用いて宣伝を行うため、現代美術展の観客が特別展と比べて少ないのは必ずしも日本の人々が現代美術を日常的に親しんでいない、という訳では無く、純粋に現代美術展示が行われているということを知らないだけという可能性もある。
だが、強力な広報を打てば来場者数が増えるという仮説を立てるのであれば、何故現代美術展は古典美術展同様の広報を実施しないのだろうかという疑問も生まれる。ここでは、「日本の現代美術鑑賞者数は国内外と比較しても少ない」という状況にのみ焦点を当てて論を進めたいと思う。
ではこのような状況から読み取れる、日本において現代美術が普及していないという事実は一体何によって説明されるのだろうか?それは、現代美術を取り扱う展覧会が少ないなどの、設備環境によるものだろうか?
 しかしながら、展覧会数の問題は東京に限って言えば、当てはまらない。
 現在東京には400以上のギャラリーがあり、そこで行われる展覧会の殆どは現代美術を取り扱っているものである。また、東京都現代美術館で開催される展覧会は美術館の名の通り全て現代美術を取り扱っているものだ。更に近年では越後妻有トリエンナーレ、愛知トリエンナーレ、瀬戸内芸術祭など、地方都市を中心にした大規模な現代美術の展覧会や、取手アートプロジェクトを始めとする地域活性等をテーマに掲げた現代美術を中心に取り扱うアートプロジェクトが頻繁に開催されている。このように、鑑賞機会で言えば決して少なくないにも関わらず、なぜ今日、日本に取って現代美術は多くの人々にとって、疎遠なものであるのだろうか?また、そのような環境で活動を行っている若手現代美術作家の置かれている状況は一体どのようなものなのだろうか?また、その状況を打破する為にはどのようなアウトリーチが必要とされているのだろうか?
 本研究は、この問いに答えることを目的とする。

1-1 日本の現代美術とは

 ここでは、美術界において日常的に使用される現代美術という言葉、そしてそれを取り巻く状況を本稿を進める上で明確に定義したい。先に述べたように、正確には現代美術という美術ジャンルは存在しない。だが、東京都現代美術館が現代美術に関する展覧会を開催することを施設概要に掲げていることから、「現代美術」と形容することの出来る作品郡があることもまた確かである。
 欧米の現代美術は1900年代のアール・ヌーヴォーと新印象派から始まると言われている。そこからフォーヴィズムや表現主義、キュビズムなど様々な美術の動向が派生してくるのだが、それら全てに共通しているのが「古いアカデミズムの価値観から脱出し、自由で新しい表現を求めた美術活動」という点である。つまりは、それが欧米における現代美術の定義だと言える。では、1873年に美術という概念を輸入し、1876年に西洋美術教育を開始した歴史を持つ日本の「現代美術」とは一体どのようなものなのだろうか。

(1)日本の現代美術の定義
 日本の現代美術は戦後に始まったとされる。明治時代に欧米より輸入され定着した美術は第1次世界大戦、第2次世界大戦にて、大勢の画家によって描かれた戦争記録絵画を通じて輸入後最大の隆盛を極めた。そして、第2次世界大戦での敗戦を通じ日本の民主化が成されたことで美術家達は戦時中と比べ国からの圧力に縛られない自由な表現を行えるようになった。戦後4年目にして読売アンデパンダン展が開始しされ多くの作家たちが様々な表現を繰り広げたこともその1つの発露とは言えないだろうか。
 戦後に展開された現代美術には、具体、アンフォルメル、反芸術運動、もの派等の表現・活動ジャンルが挙げられる。それらは当時の日本の世相、価値観、思想と深く関わっていると同時に過去の表現スタイルとは異なる手法で発展、展開している。これは、欧米の現代美術の定義である「従来のアカデミズムの価値観から脱出し、自由で新しい表現を求めた美術活動」へ日本の現代美術も当てはまるものだと言える。本稿では、展開される現代美術と同じ時間軸にいる人々、つまりは鑑賞者と現代美術の関係性に焦点を当てて論を進める為、上記の記述をふまえ現代美術を、同時代性が強く、また先駆的な表現を行っている美術ジャンルとして取り扱う。
本稿における現代美術の定義付けを行った所で次に、日本の現代美術と欧米の現代美術の関係性を考察したい。

(2)欧米と日本の現代美術
 日本の現代美術は欧米の価値基準に強い影響を受けていると言える。草間彌生、杉本博司、村上隆はオークションで作品が1億円前後で売れる、日本を代表する現代美術作家だという認識が日本国内においても強いと言われている 。だが彼らが現代美術作家として日本で広く認知され始めたのは欧米でその芸術性が認められたからである。浮世絵は世俗的なものとして日本で長く美術として認識されていなかったが、欧米に評価されたことで日本でもその価値が広く認められ、後に日本浮世絵協会が設立されたのも類似の事例だと考えられる。また、先述の戦後に展開された現代美術活動でも具体とアンフォルメルは当時の美術批評家にすら理解されていなかったが、欧米の評論家に認められたことを通じて現代美術活動として日本での評価を得ている。
 これらの事例より、日本の現代美術は完全には自立しておらず欧米の価値基準の中で展開している一面があることが伺える。この理由の1つに、日本の観衆が現代美術作品の自立した鑑賞を行っていないことが挙げられないだろうか。日本において現代美術は普及していない美術ジャンルのため、観衆の中でそれが自国の文化であるという意識が広く芽生えていないと言える。そのため、日本の観衆の大半は未だ現代美術に対する自己の価値基準を持ちえてはいないとは考えられないだろうか。これらのことより「現代美術鑑賞者の自立的鑑賞」が成されることで、日本の現代美術が欧米からの自立するきっかけが生まれるのではないだろうか。
 ただし、近年世界中で作家の国籍を問わない様々なアーティスト・イン・レジデンスが行われていることで現代美術作家自体がノマド化し国や土地にとらわれない自由な活動が行えるようになっているという利点もあり、欧米を始めとする他国の価値基準に影響を受けることが非であると一義的に述べることは出来ない。
では、現代美術が自国の文化であると広く認識されていない現代美術作家はどのような環境で活動を行っているのだろうか。本稿では、その労働・経済状況を軸に分析を行いたいと思う。

(3)日本の現代美術作家
 1930年代アメリカで起こった大恐慌時代に、雇用促進局は芸術家支援計画として1万人の美術家の雇用、20万点の制作依頼を実施した。国民へ可能な限りの労働を呼びかける中、美術家を美術家として雇用していることから当時のアメリカにおいて表現活動が労働として受け入れられていたことが伺える。
 では、現在の日本において現代美術作家の活動は労働として認められ、その表現を通じて賃金を得ることは可能なのだろうか。
 1988年に開催されたユネスコの「芸術家の保護に関する国際会議」での最終報告書の中で、1980年に採択された「芸術家の地位に関する勧告」全般に関する実施状況について「いくつかの地域で進歩が見られるにも関わらず、達成された結果には失望を覚える」と指摘している。1951年の時点で日本は既にユネスコへ加盟しているため、この指摘は日本の芸術家、つまりは現代美術作家にも当てはまると考えられる。さらに、「ユネスコ加盟国や非政府組織が芸術家の地位に関する勧告を実行するために採るべき方策」の最終報告書で、芸術家の社会的地位を高めるために採られるべき必要な措置を提唱している。その中の1つに、「芸術家に最低所得を保障する」という項目が挙げられている。この最終報告書は1988年に提唱された古いものであり現在の状況を的確にあらわしているとは言い難いが、現代美術が日本において広く受容されていない美術ジャンルであることも鑑みると、現在日本で活動を行う現代美術作家は活動における最低所得の保障が成されていないとは言えないだろうか。また、現代美術作家の新しい活動の場の1つとして認識されているアートプロジェクトにおいて、スタッフの大半がボランティアであるなどの状況から、作家が表現活動を通じて得ている賃金もまた、充足ではないことが推測できる。
 だが近年、現代美術作家の藤井光がOUR STRIKEという、芸術労働者の労働環境、生活実態を明らかにし、芸術と労働の新しい関係性を創出していくことを目的としたプロジェクトを実施している。またARTISTS’GUILDという、アーティストによるアーティストのための芸術支援をコンセプトに、アーティストの制作・展示場所における経済的支援を目的とし機材の共有システムを構築している団体が発足していることから、現代美術作家の置かれている状況を共有し支援しようとする意識が日本国内に生まれてきていることも伺える。
 しかし、賃金の問題は依然として解消されないままである。では、日本で「現代美術作家の最低所得が保障されている」状態とは、一体どのようなものを指すのだろうか。
平成21年度の勤労者世帯の1ヶ月の平均収入(実収入)は、1世帯当たり51万8千円、このうち世帯主の収入は41万9千円で、実収の80.9%を占めている。また、実収入から税金や社会保険料など世帯の自由にならない支出を除いた可処分所得は42万円8千円になっている。手取り収入のうちの31万9千円が、食費や住宅費等の消費支出に使われ、その残りの10万9千円が、預貯金や生命保険の掛け金のほか住宅ローンなどの借金の返済にあてられている 。単身世帯の消費支出は162,731円となっており、その内訳は3.8万円食料、2.2万円住居、2.1万円交通・通信、2.2万円教育娯楽、6.1万円その他(光熱・水道、家具・家事用品、被服及び履物、医療保険、教育、その他の消費支出を合計したもの)となっている。

(平均/勤労者世帯/単身世帯、の順に表記)
一ヶ月の収入(実収入)/42万円8千円/20万3千円
消費支出/31万9千円/16万2千円
黒字/10万9千円/4万円

勤労者世帯の黒字割合は25.4%のため、その比率を参考に1人世帯の黒字部分が25%だとすると、1人世帯の1ヶ月の平均収入は20万3千円程度であると考えられる。
現代美術作家を1人世帯と仮定すると、作家の所在、作品のメディア及び発表形態によってどの程度の支出になるかは想定しづらいが、作品制作費、個展開催費等、一般的な1人世帯の支出には含まれていない出費があると考えられるため、1ヶ月に最低でも20万3千円の収入が必要であると言えるだろう。
では、定職に就かず、いわゆるフリーターとして現代美術作家が労働を行う場合、その収入はどの程度のものになのだろうか。フリーター全般労働組合のアンケートによると、フリーターの年収は以下の表の通りである。

100万未満    20%
100~199万 28%
200~249万 6%
300~349万 8%
400~449万 4%
450~499万 2%
550~599万 2%
その他    10%

上記の表より、100万円未満~249万円が54%と高い数値を示していることが分かる。若手現代美術作家の一ヶ月の最低収入ラインが20万3千円であるのに対し、約7割のフリーターの1ヶ月の収入は8万円~20万円となっている。差額が12万円と個人差が大きいが、最高値ですら最低収入ラインには到達しておらず、また作品制作や個展開催準備などの活動により労働時間が一般的なフリーターよりも少なくなる可能性を考えると、若手現代美術作家のおかれている制作環境が十分なものであると果たして言うことは出来るのだろうか。またこのアンケートに答えたフリーターの40%とほぼ半数が20代後半から30代前半となっていることから、「若手」現代美術作家の経済的状況を現している1事例と考えられる。これらの事例より、本稿では20代から30代の若手現代美術作家の最低所得保障、「現代美術作家の経済的自立」をテーマに論を進めたいと思う。

①現代美術作家の経済的自立とは
 前項で述べた「現代美術作家の経済的自立」が一体どのような状況を指すのかをここで詳しく述べたい。現代美術作家が経済的に「自立」しているということは、作家としての経済状況が安定している、つまりは作家活動を行う上での金銭的な不足がないということである。先述したARTISTS’ GUILDの活動は現代美術作家の経済的自立を補足していると考えられる。ARTISTS’ GUILD名義で購入された機材は安価で美術家へ貸し出される。これにより、作品制作時における機材購入費が削減されることで美術家の経済的な負担が軽減すると言える。では、前項であげた現代美術作家を取り巻く経済・労働環境を踏まえた上で、現在どのような現代美術作家の経済的自立支援が求められているのだろうか。
芸術家の地位向上をユネスコが推進したにも関わらず、結果として「いくつかの地域で進歩が見られるにも関わらず、達成された結果には失望を覚える」と指摘している通り、芸術家、現代美術作家への支援は非常に困難かつデリケートな問題であると言える。またARTIST’S GUILDの活動を鑑みると、現代美術作家は金銭的な支援ではなく作品制作で使用する機材の共有等の支援を求めているとも考えられる。これらのことより、現代美術作家の経済的自立を達成するためには以下の6つの支援が必要であると考えられる 。

1:制作環境
2:制作で使用する機材、材料
3:作品発表場所
4:作品保管場所
5:活動をする際のサポーター(アートマネージャー・ボランティア)
6:作品共有・鑑賞機会(美術家向けライブラリー)

現代美術作家によっては上記以外の支援を必要としている可能性も十分に考えられるが、本稿では上記6つの支援を行うことが「現代美術作家の経済的自立」達成へ繋がるとし論を進める。

1-2 本稿の立場と研究方法

 最後に、第1章の結びとして、第2章以降の流れと本研究の立場を示しておく。
 本研究は、現代美術作家と現代美術鑑賞者を取り巻く日本の状況をアートマネージメントの観点から分析することを目指すものである。そのために、「現代美術鑑賞者の自立的鑑賞」「現代美術作家の経済的自立」という2つのテーマを軸に置き、その観点から現代美術普及のために必要な要素を分析していく。
まず第2章では、2009年に開催された展示会の来場者数上位に現代美術展が入っていた米仏で実施されている鑑賞者教育と日本のそれの比較分析を行う。
第3章では、第2章で説明してきた鑑賞者研究、鑑賞者教育などの事例を元に、学校を対象とした「現代美術鑑賞者の自立的鑑賞」「現代美術作家の経済的自立」のためのアートビジネスの可能性を探り、本稿の結論を示す。

→次へ(第2章 鑑賞者教育)

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

-

管理人の承認後に表示されます

-

管理人の承認後に表示されます

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

松岡詩美

Author:松岡詩美
卒業論文『東京型アートビジネス-ツールとしての現代美術-』

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。